【2017年2月時点】人工内耳3大メーカーの比較
本記事は人工内耳を装用するならどれがいいのか、ということについて悩んでいるひと向けにまとめた記事です。
※子供の場合は教育方針に関わるので、そもそも人工内耳手術ではない方向性についてはこちらの記事を御覧ください。
- 【子供が難聴だとわかったら】子供の教育どうする?幼児期の教育方針についてのまとめ
※別途、人工内耳手術のリスクと効果についての記事を作成予定です
比較表は全社へのヒアリングと公表情報から作成していますが、書き手である私は医者でもなく医療メーカー関係者でもありませんので、あくまで判断の補助として、例えば医者との議論のたたき台として使っていただくことを想定しています。
中途半端な知識で書くな、というお叱りはあろうかと思うのですが、それでも書く意味があると思ったのが、そもそもそういった比較情報が日本語で全くといっていいほどないからです。
強いていえば、2015年版になりますがこちらの東大の資料くらいでしょうか。
英語ではあるんです。例えばこちらのコクレア社の資料。
ただ、そもそも英語というハードルもありますが、日本で認可されている機種とも限らないので参考にしづらいです。
なんで判断のために必要な情報なのに出ないんだろう?というのを各社にぶつけたところ、
「日本では他社と比較するのが商慣習上失礼にあたるから」だそうで。
担当者個人には権限の範囲内でいろいろ真摯にご対応いただいたので恨みはないですが、まったく誰を向いて商売しているのかと。業界の怠慢ですね。
下のほうに比較表があるのですが、少しマニアックな数字とかも出てくるので、
そもそもの聴こえの仕組みもさらっと触れつつ、人工内耳の仕組みについてここで解説します。
聴こえの仕組みについて
まずは基本の復習から。
(引用元:http://l-s-b.org/2015/06/read-essay-to-cochlea-implant/)
①外耳道を通った音が鼓膜を振動させる
②中耳の骨が振動する
③中耳骨を介して蝸牛に振動が伝わる
続いて蝸牛の内部構造。
(引用元:http://toppatu.com/sikumi_kagyuuoto.html)
④蝸牛内にある有毛細胞が振動を電気信号に変換
⑤聴神経から脳に伝達され聴こえる。
難聴の原因について
多くの場合は、上記④のプロセス、有毛細胞に問題があるといわれています。
有毛細胞がないか、圧縮されて電気信号に変換する有毛細胞がなんらかの原因で動かないのです。
聴神経自体が少ないことも。特に音の刺激を長い間受けてないと反応しなくなることもあるのですが、聴神経そのものは生きているケースがあります。その場合は人工内耳で有毛細胞の代わりに電気信号を発することで聴こえるようになる可能性があります。
人工内耳の仕組み
人工内耳は主に有毛細胞を代替し、音を電気信号に変えて聴覚神経に伝える手段となっています。大まかな仕組みとしては以下の通りです。
(引用元:http://l-s-b.org/2015/06/read-essay-to-cochlea-implant/)
ここでは簡略的に説明されていますが、外側のプロセッサー、中のインプラントそれぞれの機能についても解説します
プロセッサーの機能
- インプットダイナミックレンジ(音を拾う):そもそもどの程度の大きさの音を拾うか
- AGC(オートゲインコントロール):拾った音を装着者が聞きやすい範囲の音に圧縮する
ここでなぜ、外から拾う音と聴かせる音をそもそも変えるかというと、まだ生きている聴神経の場所や聴こえやすい範囲に外から拾う音をプロットしなおすためです。
例えば、外では70dbの音を聴神経の生きている範囲に合わせて50dbの音に直すという機能になります
そして最後に、
- フィルター:音をどの電極に割り振るかを決定します。
このオートゲインコントロールとフィルターの調整のことをマッピングといいます
インプラントの機能
- コード化:音声を電気信号と刺激のパターンに変換する
音声と電気信号には下記のような対応関係があります
- 高さ:刺激する場所(電極番号)
- 大きさ:電荷量(電流振幅×時間)
- 音色:複数電極へ刺激の組合せ
- コード化法:大きく2つの方法
- 特徴抽出型(メドエル社の方式)
この方式では時間をずらしてすべての電極を刺激します。多くの電極で刺激する分電池の持ちが悪くなる傾向にあります。
- 時間抽出型(コクレア社、アドバンストバイオニクス社)
音の成分(高い・低い)の中から、大きい音順に刺激します。コクレアの場合上位から8個くらいまでをコード化した結果に応じて電極を刺激します。
- 電極の数
電極が増えれば音によって刺激を変えるパターンが増えるため聴きやすくなります。刺激箇所が8箇所以下(埋め変え基準)になると言葉の聞き取りに影響があるといわれているので、保険の意味合いも含め各社とも最低12個以上の電極を装備しています。
また、各社電極間の電圧差を利用したバーチャルチャネルの手法を利用して聴きやすさを増す工夫をしています。
例えば、電極AとBがあって、それぞれにかける電圧を3:7にした場合と7:3にした場合とで刺激できる聴神経の場所を変えられるという技術です。
では、電極を増やせば増やすほどいいのかというと、そういうことではありません。
電極は、増やすと太く硬くなるのと、電力の供給量は大きくは増やせないので、電極が増えると電池の持ちが悪くなるということもあり、電極を増やす方向ではどこの会社も研究を進めてはいないようです。
- 電極の長さについて
蝸牛の場所によって聞く音の高さが異なります。入口付近が高音、奥が低音を担当しています。そのため、長いほど低音には強いと言われています。メドエル社は柔らかい電極をなるべく奥まで挿入するという設計です。
ただ、聴神経が集中しているのは真ん中らへんなので、奥まで届かなくても会話に関して影響はないといわれており、また蝸牛内部を極力傷つけないという観点でも挿入は奥まで到達しなくてよいという考え方もあります。こちらはコクレア社の考え方です。
以上、ややマニアックな説明となってしまいましたが、これを踏まえて比較表を御覧ください。
比較表
・製品スペック
・コスト・保証・サポート体制
・会社概要
の構成になっております。
文字が小さくて読みにくい場合は、ファイルをダウンロードし拡大して御覧ください。
ここまで調べておいて難なのですが、聴取結果について、大きな差はないといわれています。
確かに大きな差があればどこか1社が占有していますものね。
恐らく比較が難しい原因として、同じ人が付け替えて比較するということができないということはあると思います。
ご参考まで、知り合いでコクレアとメドエルとを片耳ずつにつけている方は、前者が人との会話向き、後者が音楽向きだと評していました。
ちなみに信州大学が人工内耳手術で有名なのですが、そこの出身者もしくはそこで研修を受けている先生は蝸牛内部の組織をなるべく傷つけないという観点からメドエルを勧めてきます。
技術の発展の方向性として、インプラント部分についてはやや頭打ち感があり、むしろプロセッサーの改善に各社力をいれているように感じました。
その場合将来の改善に一番期待できるのは、技術が人工内耳よりも進んでいる補聴器メーカーと兄妹会社のAB社かなと感じました。
本記事が納得のいく選択の助けになれば幸いです。